カーエアコンの普及前は冷房機能だけを備えた「カークーラー」が助手席のグローブボックス下に後付けされていました。『カークーラー』と『カーエアコン』の大きな違いは、前者は冷房のためのだけの機能を備え、一方カーエアコンは「エアコンディショナー(空気の調整)」という機能を備えています。空気の調整とは冷房と暖房を同時に行うことでより快適な温度や湿度を作り出せるということです。今では殆んどの車種に標準装備されているエアコンですが、基本的な仕組みはカークーラーと同じで、家庭用のエアコン、冷蔵庫も同じ原理で空気を瞬間的に冷やしています。
車自体の性能や耐久性の向上に伴いカーエアコンの性能も日々向上していますが、家庭用のエアコンとは異なり、走行中の振動や衝撃、エンジンルーム内の激しい温度変化といった不安定な環境で使用されるカーエアコンの場合は『効きが弱い』『冷えない』『風力が弱い』といった故障も少なくありません。特に気温が上がり始める5月頃から残暑が厳しい9月頃は「効き目の変化」に注意した方が良いと思います。また、無駄なく効率良く、燃費、車に優しい使い方をお奨めいたします。
カーエアコンに限らず、家庭用のエアコンや冷蔵庫も周囲の空気を瞬時に冷やすという同じ仕組みになっています。大雑把に言ってしまえば『扇風機の前に大きな氷を置いて風を吹き付けている』というイメージが解かりやすいと思います。
しかし、車の車内に常に大きな氷を積んでおくことはあまり合理的ではありませんので、溶けた氷を再度凍らせるといった循環を氷に代わって『エアコンガス』で行っているというわけです。
空気を瞬時に冷やす仕組みは、例えば氷を手のひらに置いた途端に冷たく感じるという現象と同じです。これは氷や冷やされた水が手のひらの温度によって蒸発する際に手のひらの体温を奪っていくからです。
体温を含め、熱は熱い場所から冷たい場所へ瞬時に移動する性質がありますので、カーエアコンはこの熱の移動を利用して車内の空気を冷やしています。
そして、空気中の水分(湿気)が蒸発する際には臭いを発します。香水が匂いを発する理由もこれと同じです。
コンプレッサーの役割は冷えたエアコンガスを圧縮によって高温にすることです。
この状態が『手のひらの上で氷が溶けて冷たく感じる瞬間』と同じということになります。
●何故気体になって冷えたエアコンガスをそのまま循環させないかといいますと、先ずは気体のままでは急激に温度を下げることができないということ、そして夏場の外気との温度差が小さく、液体に変化しない可能性があるため、あらためて高圧力で高温にして元の状態に戻し、外気との温度差を作り、再び冷却し、液体にして、そしてまた気体にして外気よりも温度差の大きな冷めたいエアコンガスを作る工程を繰り返します。
風力が弱い場合はブロアファンの故障が挙げられます。全く風が出ないという場合は、ブロアファン自体の故障の他に、エアコン自体が動いていない状態、例えば配線の接触不良や断線、基盤の接触不良、車内のメインスイッチ(ACマークのスイッチ)の故障などが考えられます。
風が冷たくならない場合はエアコンガスの容量過不足、コンプレッサーの不具合、エキスパンションバルブの詰まり、コンデンサーファンの不具合など、色々な原因が考えられますが、通常はエアコンガスの容量をチェックするところから原因を探します。
エアコンガスの容量が少ない場合は「冷え具合いが低下」しますが、逆に充填し過ぎた場合も思わぬトラブルの原因になります。最近のエアコンガス(冷媒/R134a)は圧力が高く、ある意味良質なエアコンガスではありますが、圧力が高いため規定値の許容範囲が狭く、規定値を超えるとコンプレッサーに負担がかかったり、漏れの原因に繋がります。
エアコンガスの充填は専門知識を持った整備工場で圧力メーターによる計測を必ず行うことをお奨めいたします。
ここからの症状は熱交換上の故障ではありませんが、エバポレーターから出される結露水が溜まるトレー(ドレンパン)の排水口や結露水を車外に排水するパイプ(ドレンホース)がホコリや異物などで詰まったり、捻じれたりした場合はドレンパンから溢れ出し、抜けてしまっている場合はドレンパンから直接流れ出てしまい、何れも足元に流れ出ることになります。ただの冷水なので足や衣類にかかっても問題はありませんが、その水が他の配線などにかかった場合はショートや漏電といった二次トラブル発生の危険性がでてきます。
運転中に「チャポチャポ」と水が暴れる音が聞こえたら1度整備工場でドレンパン、ドレンホースの清掃、または交換を行った方が良いと思います。その際はエアコンフィルターの交換やエバポレーターの清掃を同時に行うと安心です。
状態や車種によってはダッシュパネルを外す必要がありますので、その場合は少し費用が高くなる可能性があります。
次に、車内や車外から取り込んだ温かい空気が冷えたエアコンガスによって冷やされたエバポレーターを通過し空気中の熱が奪われる際、同時に空気中のホコリやカビ、花粉などの臭いを発します。これは空気中の熱の中の湿気が水蒸気に変化する際(蒸発)に臭いを発するという原理に基づくもので、他の例としては香水が空気中で蒸発(気化や揮発)する時に匂いを発し、人間の嗅覚がその匂いに反応するという原理と同じです。空気中の異臭は冷風と一緒に車内に放出される一方、エバポレーターにも付着してしまいますので、エアコンによる車内の異臭が気になる場合は、やはりエアコンフィルターの交換、エバポレーターの清掃を行った方が良いと思います。
家庭用エアコンでもカーエアコンでも勘違いされている方が多いようですが、エアコンを弱い状態で長く使うよりも、一気に室温を下げ、エアコンを停止させてその室温を維持する方法の方が燃料を節約できることになります。何故なら、エアコンを弱めても設定温度に達しない限り「コンプレッサー」が稼動してしまうからです。設定温度を高めにセットしておけばコンプレッサーの稼動は抑えられますが、猛暑日ではなかなかそうはいきません。冷凍庫のように冷風を必要とする車内ではどうしてもコンプレッサーはフル稼働してしまいます。
車内温度が外気よりも高くなっている時はエアコンを『外気導入』で使用し、ある程度車内温度が下がったら『内気循環』に切り替え、車内温度が適温になったら風量を弱めるのではなく、温度設定を高めた方がコンプレッサーの稼動は抑えられます。風量はブロアファンの調整で行いますので、エンジンへの影響(燃費への影響)はさほど大きくありません。
カーエアコンの使用だけに限らず、太陽光を防ぐことも車内温度を下げるために効果的です。最近の車のウィンドウは「UVカット」(紫外線カット)が施されていますが、車内を暑くする原因は「赤外線」(IR/熱線)、特に中赤外線ですので、この中赤外線をカットすることで更に車内の高温化予防になると思います。
カーエアコンを正しく適切に使用して、このような事故が起きないよう、十分にご注意願います。